祝会  12月18日


「マルチンさんへの手紙・・そしていただいた贈り物」

 アドベントクランツに2本火が灯り、「私によく似合う靴、靴をくださいな〜♪」と歌声が響き始めた頃、マルチンさんの家にお弁当を食べに行くことになった。
本物の大きな革靴を手に椅子に腰かけるマルチンさん(A先生)を目にしたとたん、こども達は「靴屋のマルチン」(トルストイ原作)の世界に入り込む。少し薄暗い遊戯室の中で食べるお弁当は、いつもよりも格別なのだろうか?あっという間に食べ終わった年長男児3人。私が「マルチンさんにお手紙書こうか」と誘うと、「うん、足が速くなる靴をくださいって書いて」とH君。「宇宙まで行ける靴をください。」とR君。いつも耳にしている歌の世界も重なっているのか、なるほど彼らは自分にとってとびきりな靴がほしいのだな、と微笑ましくなる。絵本を楽しんできた年長ならではの空想の世界と言葉の豊かさにも嬉しく思う。私は一人ひとりの願いの言葉を小さなメッセージカードに書き込み、彼らに手渡す。食後の楽しいひと時として、その後の手紙の行方は気にも留めず。(お家に持って帰ったかな?程度)〜それからロウソクがまもなく4本になろうとしているある日のお弁当の時間。「そういえばさ、マルチンさんお願いした靴まだくれないね」とH君。「そうだよな」と口々にR君、Y君。一瞬箸が止まる。「え?あの手紙マルチンさんに渡したの?」「うん、そうだよ」と当たり前の顔の3人。(え〜?マルチンさんに自分で渡しに行ったんだ。クラスが違うA先生の元へ、いつの間に??)驚きと思わず笑みが込み上げた。けれど内心A先生と何も話していない。彼らの思いを叶えてあげたいけれど、靴は作るといっても難しいなとあっさり諦める私。そしていよいよページェント。年長児の堂々とした姿に涙しながら、感動に浸り、さて次は祝会。普段は段ボールや布で基地つくり等、子どもと共にダイナミックな環境作りをする事が多い私たちも、一年に一度この午後だけは特別。ページェントの余韻に浸りながら小さなクリスマスのオーナメントを一つひとつ飾り付ける何ともいえない至福の時である。するとA先生が何やら折り紙で靴を作りながら「この靴にどうやって羽をつけたらいいかな?」と聞こえない位小さく呟く。「あれ?もしかして彼らの手紙の事・・」と一瞬思いがよぎるが、他の準備を思い出し、その場を去ったまま翌日となる。
おめかしした小さな紳士、淑女を「ようこそ皆さん!」とマルチンさん。(ここまでは予定通り・・保育者はシナリオを作成し、午前中流れの練習をしていた。)マルチンさんの話が始まる。会場がシーンとなる。そして「この前・・宇宙までいける靴をください。と手紙をくれたR君、注文通り靴を作ったよ。」とマルチンさんがこちらに届けにくるではないか。(あれ?さっきの打ち合わせと違う。)その靴にはよく見ると小さな星や月の飾りが。そしてk君への靴には羽が付いている。「わーい!」と歓声をあげるこども。けれどその時の私の驚きと喜びと言ったら、きっとその何百倍も負けない。
今年もこども達の賛美、ハミングの方の素敵な歌声、心のこもった美味しいお食事。どれも幸せいっぱいのクリスマスプレゼントをいただいた。その上にさらに、ささやかなこどもの思いにしっかりと応えてくれた、このマルチンさんと出会えた事。若い保育者から保育の大切な事を学んだ。かけがえのない贈り物となった。マルチンさんが聞いたイエスさまの声が聞こえてくるようだった。「マルチン マルチン 明日行くから待っておいで」 (保育者より)



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